再生可能エネルギーの普及が、なかなか進まない日本ですが、日本政府のエネルギー戦略として、水素エネルギー(水素燃料)があるのをご存知ですか?
日本は今、「再生可能エネルギーよりもすごい、究極のクリーンエネルギー」として水素エネルギーの導入に積極的です。
最近では、水素エネルギー技術を世界に発信するために、2020年の東京オリンピックの聖火台や聖火リレーのトーチ(松明)に水素燃料が使われる計画なども発表されていました。
他にもオリンピックで「水素で走る車」や「水素で運営されているホテル」が使われるなんて噂もあるほどです。
しかし、水素エネルギーには、メリットだけではなく水素爆発するリスク・デメリットがあるのも確かです。
それでは水素エネルギーが、日本の未来をどのように変えるのか、一緒にみていきましょう。
水素エネルギーは日本のエネルギー戦略にピッタリ!?
↑クリックすると水素エネルギーで生活がどう変わるのかわかります。
例えば、日本が水素社会になると、以下のように変わります。
・車の燃費が2倍に伸びる
・余ったエネルギーで安定した電力の供給ができる
・水素エネルギーは輸送して使える
・災害時に非常用電源として利用できる
便利になり、環境に優しい未来が期待されています。
日本はエネルギーに乏しい国であり、日本の一次エネルギーの94%は海外から輸入する化石エネルギー資源頼りです。
化石エネルギーというと環境に悪影響を与える「CO2の排出抑制」も世界的に重要な課題になっています。
日本も化石エネルギーの依存からの脱却、CO2排出抑制という目標を実現するためクリーンなエネルギーの導入を進めています。
そこで日本政府は、水素社会を目指し「水素基本戦略」で水素エネルギーの開発を進め、TOYOTA自動車の水素で走る「電池燃料自動車」の普及も進んでいます。
では次に、「水素エネルギーが太陽光、風力などの再生可能エネルギーと何が違うのか?」についてみていきましょう。
そもそも水素エネルギーとは?『再生可能エネルギー』とはナニが違う?
そもそも「水素エネルギー」とは何なのか。また再生エネルギーとは何が違うのでしょうか。
もしかしたら、聞いた話と違うことがあるかもしれません。
水素エネルギーの定義
「水素」と「酸素」を反応させると、水と電気が発生します。
その水素を元に発生した電気が水素エネルギー(別名:水素燃料)です。
水素エネルギーにはこんな特徴があります。
・硫黄酸化物(大気汚染物質)を出さない
・排出されるのはH2O(水)だけ
このように大気汚染物質を排出しないため、「究極のクリーンエネルギー」とも呼ばれているのです。
再生可能エネルギーの定義
再生可能エネルギー(Renewable Energy)とは、太陽光や風力、地熱などの天然資源を利用したエネルギーのこと。
・枯渇しない
・どこにでも存在する
・CO2を排出しない(増加させない)
このように再生可能エネルギーは環境に優しいエネルギーですが、太陽光発電、風力発電などは、天候によって供給が左右されることがあります。
水素エネルギーは、天候に左右されることがないので、供給が不安定になる再生可能エネルギーと組み合わせたエネルギー対策を勧めています。
ここがスゴイ!水素エネルギーのメリット3つ
水素エネルギーには、どのようなメリットがあるのかを紹介します。
どこでも調達できる
↑画像をみて「アレ?」と思ってしまいますが、実は水素は水だけではなく、
- 廃プラ
- 下水
- メタノール・エタノール
- 化石燃料
- 製鉄所や化学工場
など、さまざまなところから水素は調達することができます。
下水汚泥や廃プラスチックがどのように水素エネルギーになるのかについても、この記事の途中で紹介します。
水素は使っても二酸化炭素を排出しない、しかも…
水素を使った発電の最大のメリットが、「使っても二酸化炭素を排出しない」ということです。
化石燃料から水素をつくるときにCO2が排出されますが、海外で実用化されているCO2を地中に貯蔵する技術『CCS』と組み合わせることで、「実質、二酸化炭素排出ゼロ」にすることができます。
再生可能エネルギーを用いて水素エネルギーを作れば、発電から使用までCO2をほとんど発生させない仕組みも実現できます。
水素はガソリンよりエネルギー効率が2倍
水素エネルギーを使ったFCV(燃料電池自動車)とガソリン車を比較した場合、エネルギー効率でも水素は優れています。
ガソリン・エンジンのエネルギー効率は30~40%ですが、FCV(燃料電池自動車)は60%以上です。
このように水素はガソリンよりエネルギー効率が1.5〜2倍になります。
たとえば、化石燃料から水素を製造するときにCO2が発生しても、トータルで見ると二酸化炭素の排出を減らすことができます。
どうやって作る?水素エネルギーの最新技術
水素は宇宙で一番多いと言われている元素で、枯渇する心配のない資源としても注目されています。
最新技術では、次のような画期的な方法で水素エネルギーを作り出すことができます。
家畜由来の糞尿から
家畜由来の糞尿や下水汚泥などを発酵させて生じるバイオガス(主成分は炭酸ガスとメタンガス)からメタンガスを精製し、メタンガスから水素を製造する方法です。
バイオ“ガス”の精製、水素製造過程ではCO2が排出されますが、バイオ“マス”由来の水素エネルギーなので、完全なCO2フリーエネルギーになります。
日本での家畜の糞尿による水素製造は、2017年に北海道で初めて実証実験が運用されています。
福岡市や富士市などでは、下水汚泥から水素を製造してFCV(燃料電池車)に供給する実証事業が実施されています。
使用済みプラスチックから
使用済みプラスチックからアンモニアを製造する「プラスチックのケミカルリサイクル」という方法もあります。
廃プラスチックを化学的に分解することで、水素を作ることができ、さらに途中で発生した二酸化炭素をドライアイスや炭酸ガスとして再利用をすることもできます。
↑実際に神奈川県川崎市の「川崎キングスカイフロント東急REIホテル」では、使用済みプラスチックから作られた水素による純水素型燃料電池「H2Rex」が稼動しています。
工場の副産物として高純度水素から
製鉄所や食塩電解工場といった化学品などを製造する工場では、製造過程において水素が発生します。
こういった副生水素は、純度の高い水素として取り出すことができ、水素エネルギーとして利用することができるのです。
そのため臨海工業地帯などでも水素ステーションを作り、利用する動きが進められています。
小水力発電を利用して水素を作る
小水力発電所で発電した電力を使って、水電解して水素を作る方法です。
実用化もすすんでおり、作られた水素は酪農家や温水プール、釧路市内の福祉施設、トヨタ自動車士別試験場で燃料電池自動車の燃料として利用されています。
太陽光発電から水素を作る
太陽光発電の余剰電力を使って水を電気分解し、水素に変えてエネルギーの貯蔵することもできます。
この電気を水素ガスに換えて貯蔵するシステムを「P2G(Power to Gas)」と言います。
これで再生可能エネルギーによる発電の弱点
- 発電量は天候次第
- 発電しても充電はできない
をカバーすることもできます。
特に変動の大きい太陽光や風力の不安定な供給面は、過剰電力を水素に転換してしまえば安定量を供給できるようになるメリットがあるのです。
どうやって使う?水素エネルギーの実用例3つ
では実際にどのように水素エネルギーが使われているのか、すでに普及している水素エネルギーの実用例をみていきましょう。
家庭で水素発電できる『エネファーム』
↑私たちの生活の中で一番身近な水素エネルギーと言えるのが『エネファーム』です。
家庭用燃料電池の『エネファーム』は、家庭の供給ガスから水素を取り出し、その水素と空気中の酸素を化学反応させて電気を作ります。
さらに発電の時に発生する熱でお湯を作り給湯に利用することができます。
そのため、家庭においても省エネで電気代削減のメリットがある発電システムです。
水素を使った大規模な発電『新しい未来の発電方法』
水素を『核融合反応』させると、水3リットルで日本人ひとりが消費する1年分の電気を発電することができるという発電方法です。
(2019年現在開発中で実用はされていません。)
『核融合反応』と聞くと、原子力発電のような、とても危険なイメージをしてしまうかもしれません。
しかし、水素を使った『核融合反応』は、「トリチウム」(三重水素)という、もっとも毒性の少ない放射性核種を使っています。
「原子力発電で使うプルトニウムやウランは10万年の隔離が必要」と言われていますが、「トリチウムは100年管理すれば再利用できる」そうです。
核融合発電が確立すれば、少量の水素で大規模な発電ができる新しい未来の発電方法になるかもしれません。
水素と酸素で走るFCV『水素車』
↑水素エネルギーを一躍有名にしたのがTOYOTAが発表した水素車「MIRAI」を実際に運転している様子。
正式には水素車ではなくFCV(燃料電池自動車)と呼びます。
↑このように燃料電池車は、水素と酸素の化学反応で発生した電気エネルギーでモーターを回す仕組みで動きます。
ガソリン車がガソリンスタンドで燃料を給油するように、燃料電池自動車も「水素ステーション」で水素の補給が必要になります。
トヨタによると3分程度で充填することができ、走行距離は約650km(参考値)ガソリン車と使い勝手もほとんど変わりません。
万が一事故にあった場合、「水素」が爆発するのでは?と危険性が気になりますが、トヨタのMIRAIは約80kmで追突されても、事故でパイプが折れたとしても水素爆発することはない設計になっているとのことです。
あなたの近くの水素ステーションをチェック!
FCV(燃料電池自動車)は、「水素ステーション」で水素を充填します。
水素ステーションが近くに無ければ乗ることができませんよね。
現在、日本の水素ステーションは4大都市を中心に約100か所です。
2020年には160か所、2025年には320か所に増えるとの予測があります。
水素エネルギーの将来性と未来
水素エネルギーが普及すると将来どのような影響があるのでしょうか。
水素車の普及率が100%になったら…
日本国内を走る車がずべて水素車になった場合、CO2約2億トンを削減することができ、CO2排出による環境問題を軽減することができます。
2017年のデータでは、日本の二酸化炭素排出量は約12億トンあり、そのうち運輸部門では2億1300万トンでした。
運輸部門のうち、バスやタクシーを含めた自動車全体で86.4%(1億8388万トン)を排出しています。
自家用乗用車だけでも約1億トンです。
約1億トンのCO2を森林が吸収する場合、日本の国土約1/3(北海道+九州)の面積で1年間という時間を要します。
バス、タクシー、飛行機などすべて含めると約2億トンですから、日本の国土2/3に相当する森林が吸収するのに1年もかかる量なのです。
ちなみに、飛行機の飛ぶ高度で発生する排気ガスは未規制で害が多く、人の死につながるような汚染をもたらすとも言われているのです。
年々増える飛行機の空気汚染も解消できる!?
↑空を飛んでいる飛行機の便数は20年で約2倍に増えています。
↑世界一飛行機が飛ぶアメリカだけでも年間900万便以上の飛行機が行き交っています。
航空機からの大量な排気ガスも大気汚染の一因になっていることも忘れてはいけません。
航空機の排気ガスは車と同じく、二酸化硫黄、窒素酸化物などの大気汚染物質が何種類も含まれています。
大型航空機1機の離着陸で約4トン、中型機だと約2トンの燃料を使用するため、北京、上海、広州では毎日1000便以上のフライトがあることから、航空機が毎日排出する汚染物質は、少なくともタクシー60万台をフル稼働させたときの排ガス排出量に相当すると説明した。
引用:http://news.searchina.net/id/1521490?page=1
1日にタクシー60万台がフル稼働した時と同じ量の汚染物質が上空に排出されているんですね。
しかもこれが世界中となれば60万台どころではありません・・・。
航空機にも水素エネルギーが普及すれば、年々増える飛行機の空気汚染の解消にもつながるかもしれません。
水素による核融合反応が確立されたら
出典:温室効果ガスインベントリオフィス 全国地球温暖化防止活動推進センターウェブサイトより
水素による核融合反応が確立された場合、日本国内の41%のCO2排出量を削減することができます。
CO2排出量の大部分を占めるエネルギー転換部門で削減できるので、CO2排出抑制に大きく貢献するでしょう。
貧しい国でも電気を使えるようになる
↑電気普及率が低いワースト10カ国。
215か国中約140か国がほぼ100%の割合で電気が普及していますが、電力普及率が低い国もたくさんあります。
しかし、電気普及率最低国の20カ国近くが50%未満で、その中でも南スーダン、チャド、ブルンジという国は10%未満です。
もし、水素が普及し家庭でも手軽に電気を使える発電ができるようになれば、貧しい国でも電気が使えるようにすることができます。
知っておきたい水素エネルギー4つの【問題点・デメリット・リスク】
CO2を排出しないクリーンな水素エネルギーですが、メリットだけではなく、まだ問題点やデメリット・リスクもあります。
現状では多くの水素が化石エネルギーから作られている
クリーンなエネルギーとしている一方で、現在では多くの水素が化石エネルギーから作られています。(中国で生産される62%は化石燃料由来)
『エネファーム』もガスから水素を取り出しています。
水素を作るために、
- 枯渇問題のある化石エネルギーを採掘
- 化石エネルギーからのCO2の排出
というのは、エネルギー問題、環境問題において矛盾している点がありますよね。
水素社会実現のためには、化石エネルギーに頼らずに水素エネルギーを作れるようにならなければいけません。
大きなエネルギーを保管する技術が必要である
水素は金属の内部に浸透すると『水素脆化』(すいそぜいか)という金属の強度を弱くさせる減少が起こります。
水素は簡単に引火し、水素爆発を起こす可能性があるので、水素脆化おこさない方法で保存、使用されないといけません。
貯蔵と取り扱いには化石燃料よりもインフラの整備などに技術と費用がかかることが普及の妨げになっています。
普及と開発に時間と費用がかかる
IEAによれば水素車(FCV)の普及率は2040年でも1%との予測されています。
水素ステーションも全国で104ヶ所しかなく、その建設費用も1ヶ所で4億~5億円とガソリンスタンドの5倍の費用がかかります。(EVの急速充電器の初期費用は330万~1650万円)
建設費用が高く、水素ステーションの開発がなかなか進まないという状況にもあります。
燃料電池自動車の価格も700万円台と高額であることなどから、国内販売数も3000台程度にとどまっています。(優遇税制の適用でも500万円以上)
国の政策では、2025年までに500万円台、水素ステーション1ヶ所あたり2億円に引き下げる目標を設定しています。
水素エネルギーでは、高い技術も必要ですし、費用もかかるので普及や開発に時間もかかってしまっています。
「トリチウム汚染」について考える必要も
水素を使って核融合エネルギーを作るには、さきに説明したとおり「トリチウム」(もっとも弱い放射性核種)が利用されます。
自然界のトリチウムだけでは足りないので、さらに大量のトリチウムを生産する必要がありるのです。
その中で、大量に漏れたり、汚染される可能性もあります。
放射性物質の中でも毒性は高くないとされるものですが、トリチウムによる被ばく事故の実例もあります。
体内では均等分布で、生物的半減期が短く、エネルギーも低い。こうしたことから三重水素は最も毒性の少ない放射性核種の1つと考えられ[13]、生物影響の面からは従来比較的軽視されてきた[14]。しかし一方で、三重水素を大量に取扱う製造の技術者ではあるものの、内部被曝による致死例が2例報告されている[15]。
水素による核融合エネルギーを行なう場合は、トリチウム汚染についても考える必要があります。
【まとめ】「水素エネルギーは魅力的。ただし高度な技術と管理が必要」
水素エネルギーは、水や糞尿からも作れるクリーンエネルギー。
エネルギーが大きいので、管理する技術やインフラの整備が重要になってきます。(トヨタの車はそれをクリア。あとはコストと普及の問題?)
核融合エネルギーを作る場合は、トリチウムの汚染について考えないといけません。
そして水素エネルギーが一般的に普及するには、コストの低下が重要になるでしょう。
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